Q1.冥王星は、どんな天体ですか。
A1.冥王星が発見されたのは今から75年前の1930年のことです。
このさいはての惑星は冥界の神にちなんで「プルート」と名づけられました。
冥王星はこれまで惑星として認められてきましたが、最近の技術の進歩から冥王星が以前考えられていたよりも遙かに小さい天体であること、海王星以遠にも多数の天体が発見されるようになり、中には冥王星よりも大きいサイズの天体があることが判明して、冥王星が惑星であるという根拠が揺らいでいました。
そしてついに国際天文学連合 (IAU) では2006年総会で冥王星を惑星から「dwarf planet」(準惑星)へと格下げすることを決定しました。さらに冥王星には、小惑星番号134340番が割り振られました。

惑星の定義はこれまで明確ではなかったのですが、今回の総会で惑星の定義が次のように決定しました。

 1. 太陽のまわりを公転していること。
 2. 自己の重力によって球形になるほど十分な質量を持っていること。
   より明確にいうと、自己の重力により重力平衡形状になっていること。
 3. 軌道上の他の天体を排除 (clear) していること。

冥王星の場合、3を満たしていないという理由から惑星ではなく準惑星という分類になったわけです。
また太陽系外縁天体内の新しいサブグループである冥王星型天体に分類されます。

冥王星にはまだ惑星探査機が訪れたことがなく,冥王星に関する情報は望遼鏡や衛星による観測をたよりに得られています。
太陽系の惑星の公転軌道がほぼ円なのに対し,冥王星の軌道はやや細長いだ円です。
だ円の形が,どれくらい円とちがっているかをあらわす数値を「離心率」といい、離心率が大きいほど軌道が細長い楕円であることを示します。
地球の公転軌道の離心率が0.02なのに対し,冥王星の値は0.25であり、この値が惑星の中で最大である水星(離心率0.20)よりも大きい。したがって太陽に最も近づくときには,太陽からの距離はおよそ30天文単位となり,海王星より約1億キロ内側になります。一方,太陽から最も遠ざかるときには50天文単位の距離になります。
また惑星の軌道面はほぼ黄道面上にあり、最大の水星でも7度であるのに対して,冥王星の軌道面は17度も傾いています。
冥王星の公転周期は248年である。1979年に海王星より内側の軌道に入った。
海王星軌道の外に出るのは1999年であり,それまでの間,冥王星は海王星より太陽に近いことになる。
冥王星は1989年に近日点を通過した。つまり最も太陽に近づき,地球から観測しやすくなっていました。
さらに1980年代には,地球からみて衛星力ロンの軌道が冥王星を横切ってみえる「食」の配置になったことによって,冥王星の大きさをはじめとするさまざまなデータが得られました。
冥王星と衛星カロン
冥王星と衛星カロン
 冥王星の基本データ
軌道長半径
(天文単位)
公転周期
(年)
自転周期
(日)
赤道半径
(km))
質量
(地球=1)
平均密度
(kg/u)
表面重力
(地球=1)
衛星数
 
39.54 247.80 6.387(逆行) 1137 0.0022 2130 0.07
Q2.冥王星には、衛星があるということですが。
A2.冥王星の衛星力ロンは1978年に発見されました。さらにニクスとヒドラの2個の衛星が2005年に発見され、冥王星の衛星は3個が確認されています。
カロンの軌道を測定することにより,冥王星と力ロンの距離がたいヘん近いことがわかりました。

最近の報告では,その距離は19,640キロ前後とされています。
地球の月が,地球半径の約60倍(約38万キロ)の軌道を公転しているのにくらベて,力ロンは冥王星半径の約17倍という非常に近い軌道を公転しています。
冥王星とカロンのように,これほど接近した二つの天体の間には強い潮汐力が働きます。
そのためカロンの軌道はほぼ円になり,冥王星の自転と,カロンの公転・自転は同期しています。
冥王星の自転軸の傾きは122度で,自転周期は約6.4日です。
食がおきると,冥王星とカロンの全体の明るさは,食でかくされた面積の分だけ暗くなります。
そこで光の強度が時間とともに変化するようすを調ベると,冥王星,カロンそれぞれの大きさがわかります。
冥王星の赤道直径は2300キロ,カロンの直径は冥王星の約半分の1200キロです。
冥王星は,地球の月の約3分の2,最大の小惑星であるセレスの2.5倍にも満たない大きさしかありません。
また冥王星に対するカロンの大きさは,衛星としては非常に大きく、冥王星とカロンは惑星と衛星というより,実質的には連星系といえます。
1991年には、ハッブル宇宙望遠鏡で冥王星とカロンの画像が撮られました。
現在のところ、カロンのほかには衛星はみつかっていません。
カロンの自転と軌道運動は同期しており、ちょうど月がいつも同じ面を地球にむけているように、常に冥王星に同じ面をむけながらその周囲をまわっています。また冥王星の自転もカロンの軌道運動と同期しており、冥王星は常に同じ面をカロンに向けています。

平均密度は1立方メートルあたり2130キロとなり,これらの天体が氷のほかに岩石質物質をかなり含むことを示しています。
最近では冥王星とカロンを分離することにより、初めてすばる望遠鏡によりカロンだけの赤外線スペクトルを観測することに成功しました。
その結果、カロンの表面に氷が存在することが確認されました。
面白いことに、冥王星のスペクトルには氷の吸収はなく、また逆に冥王星のスペクトルに見えているメタン(固体)などに特徴的な吸収もカロンには見られず、両天体で表面組成が大きく異なっていることが分かりました。
2005年にはハッブル宇宙望遠鏡の観測により、さらに2個の衛星が発見され、それぞれ、ニクス、ヒドラと命名されました。これらはカロンに比べれば、遙かに小さい天体で、その特性はほとんどわかっていません。
冥王星の衛星の基本データ
衛星名 直径
(km)
平均軌道半径
(km)
公転周期
(日)
自転周期
(日)
質量
(kg)
発見者 発見年
カロン 1,172 19,640 6.387 6.387 1.90×1021 クリスティー 1978
ニクス 44km 48,675±120 24.856±0.001 - <5×1018 ハッブル宇宙望遠鏡 2005
ヒドラ 44〜50km 64,780±90 38.206±0.001 - <5×1018 ハッブル宇宙望遠鏡 2005
Q3.冥王星の地表のようすはどうなっていますか。大気はありますか。
A3.冥王星は,ちょうどトリトンのような氷衛星と同様の性質を持っていて、固い表面を持ち、薄いながらも大気も持っています。
冥王星はガスの惑星ではなく,地球と同じような固体の表面をもっています。
さらに冥王星には非常に薄い大気が存在しています。これは冥王星が星をかくす「恒星食」という現象によって確かめられました。
恒星が冥王星にかくされるときに,恒星の光がすぐにみえなくなるのではなく,ゆっくりと滅光したのが証拠となりました。
減光のしかたから,冥王星の大気は透明な上層大気と,かなり不透明な下層大気に,はっきりと分けられることがわかっています。
冥王星表面での大気圧はトリトンと同様で地球の10万分の1です。
スぺクトル観測から,冥王星はメタンの氷または霜で,力ロンは水の霜でおおわれていることがわかりました。
氷上のメタンの蒸気圧は温度にきわめて敏感である。
IRAS(赤外線観測衛星)の観測から決定された冥王星の表面温度はマイナス215℃で,メタンの大気が存在可能な条件になっています。
冥王星のアルべド(反射能)は大きく,およそ50%です。
これは,表面を明るいメタンの氷でおおわれているためであると考えられます。
ただしメタンの氷は長時間太陽の紫外線や放射線にさらされると暗いものに変化します。
冥王星が太陽から遠ざかって表面の温度が下がると大気中のメタンが凝縮し,地表に新雪として積もるのかもしれません。
冥王星は,海王星最大の衛星であるトリトンに,大きさや密度,薄い大気をもつ点がよく似ています。
したがって,冥王星とトリトンの起源については,同じような過程を経て形成された天体が,一方は海王星にとらえられて海王星をまわる衛星となり,もうー方は太陽を公転するようになったともいう説もあります。カロンの起源もなぞです。